ジャズギタリスト・馬場孝喜さんインタビュー【前編】
インタビュー - ジャズマンに訊く
はじめに
上達のコツや演奏に関する知識など、第一線で活躍しているミュージシャンにさまざまな話を聞くインタビュー記事です。
肉じゃぎのインタビュー企画第2弾として、ジャズギタリストの馬場孝喜さんにインタビューさせていただきました。
馬場さんの経歴や上達のコツ、その他練習方法など、ジャズギタリストにとって参考になる話が満載です。ぜひ最後までご覧ください。
【インタビュー内容について】
インタビューは2回に分けて行われました。
当記事は前編です。
今回のインタビュー(前編)は2021年11月11日にZoomを使用して行われました。
後編は前編をさらに掘り下げた内容になっていますので、そちらも併せてご覧ください。
→後編はこちら
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馬場孝喜さんインタビュー
【公式サイトより】
馬場孝喜さんプロフィール
京都府出身。中学時代からギターを始める。
2004年、ニューヨーク〜ブラジルに渡航し、 ギタリストBilinho Teixeiraに師事。
ボサノバ、サンバ、ショーロなどのブラジル音楽に傾倒する。
2005年ギブソン・ジャズギターコンテスト最優秀ギタリスト賞受賞。
2006年11月25日に京都コンサートホールで行なわれた「佐山雅弘 PLAYS ゴールドベルク変奏曲」第二部の佐山雅弘トリオに参加。
2008年より拠点を関西から東京に移す。
佐山雅弘、井上智、大坂昌彦、沢田穣治など多数のミュージシャンと共演。
現在、自身のグループや様々なセッション、レコーディング、講師など幅広く活動している。
2013年11月20日、初となるリーダーアルバム『GRAY – ZONE』をSong & Co.レーベルよりリリース。
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ギターを始めたきっかけ
ギターを始めたきっかけは何ですか?
それが、よく覚えていないんですよ。
詳しくは覚えていないんですけど、なぜか小学校5〜6年生の時に「ギターを買って欲しい」って親に頼んだんです。
それで、その時は買ってもらえなかったんですよ。
楽器屋に行くだけ行って。
なんで欲しくなったのかはまったく覚えていないんですよね…。
ユニコーンとかのバンドを見ていたからかもしれないです。
当時は第2次バンドブームがあって、ユニコーンとかTHE BOOM(ザ・ブーム)、レピッシュとか。
あとは、たまとかリンドバーグとかもですかね。
そういうバンドが流行っていたんですよ。
ギターをはじめたきっかけは本当に覚えてないんですけど、おそらくそういう理由だと思います。
いちばん初めに手に入れたギターはどんなギターですか?
ZO-3 ギターです。
親に「ギター買って」って言って新品で買ってもらって。
当時は本格的にやろうとか思っていたわけでもないし、アンプが要るとかそういうこともわからなかったので、とりあえず一番安いやつを買ってくれって言って買ってもらいましたね。
最初の頃は B'z とかを弾いていました。
バンドスコアとかを買ってもらって、それを見ながら弾いてましたね。
中学の1年の頃に ZO-3 ギターで、中学2年くらいになってやっと普通のギターを買ったんだと思います。
中学2年生の時にストラトを。
それとFERNANDES(フェルナンデス)とかのすごく小さいアンプですね。
当時ジャンプの一番後ろの方に広告で載ってたような。ああいうアンプを手に入れました。
通販で買ったわけではないんですが。総額2万円ぐらいのようなやつです。
それでユニコーンのコピーとかをやったりしてたんですが、中学3年ぐらいになると周りにバンドをやってるヤツも現れたりして。
その人たちと近くの安いスタジオに入って、音を合わせたりとかそんなことをやっていましたかね。
ジャズに興味を持ったきっかけは何ですか?
当時、バンドで演奏する時に BOOWY のコピーもしてたんですが。
BOOWY のCDに『GIGS』とか『LAST GIGS』とか『“GIGS” CASE OF BOØWY』とか、ライブ盤の音源があって。
自分はライブ版の音源がすごい好きなんですよ。
「3ピースでこんな音出せるって超かっこいいやんな!」って思ってたんですよね。
布袋さん(布袋寅泰)のギターって縦横無尽じゃないですか。
で、BOOWYのライブ音源を聴いていたら、布袋さんが同じ曲でも毎回違うフレーズを弾いてることに気づいて。
例えば『NO NEW YORK』のソロとか、聴いてみると音源ごとに違うフレーズを弾いてるんですよね。
それで当時はペンタトニック(スケール)とかいう言葉を知らなかったけど、コピーをしてみたらある特定のフレットを押さえると布袋さんと同じようなフレーズが弾けるっていうことを発見して。
それがペンタトニックスケールだということは後で気づいたんですが、それでそんなペンタフレーズを弾く演奏をしたりしていました。
それでまずはアドリブっていうものに興味を持ったという感じですね。
そこからアドリブに興味を持って、高校の時にデスメタルバンドと言うか、ニルヴァーナとかハイスタとか、ああいうメロコアみたいなバンドをやっていて。
そういうバンドってドラムが難しいじゃないですか。ギターもまぁ難しいところはあるけど。
でも、特にドラムは手と足が動かないとダメだったりして難しいから。
そんなことがあって、一緒に演っていたドラムの子が1人ドラム教室に通って習っていたんです。
で、その子が通っていたドラム教室の先生の知り合いがギター教室をやっていて。
そのギター教室に入って、そこでジャズを教えてもらったという感じですね。
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ギター教室へ
まぁ大人になって考えてみると、楽器の上手な方が教室をやっているとか、そういうことはよくある話だとは思うんですけど。
当初はギター教室に行くことになるなんて考えもつかなかったですね。
そこのギター教室に行ってみたら、先生がいわゆるフュージョン系の演奏をする方だったんです。
で、先生がブルースとかをペンタトニックスケールで『バーーーッ!』って弾くような演奏を見せてくれたりしました。
それでそこで習うようになって。
「これがジャズや」みたいに教えてもらって、そこからジャズに入ったという感じかな…。
だから最初はジャズを聴いたこともなかったですね。
最初によく聴いたジャズギタリストは覚えていますか?
最初は Wes montgomery とか…。
あとはPat Martino かな。
ギター教室に通い始めた頃に、レンタルCD屋さんに行って『ジャズギター』って書いてあるコーナーから軒並み、とにかくたくさん借りてきて聴いたりしましたね。
ギター教室の先生に借りたりもしたかな。
それをカセットテープにダビングしてウォークマンで聴くっていう。
呪文のように聴いていましたね。
とにかく学校の授業中に聴いてたんですよ。 寝ながらと言うか。
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Wes Montgomeryを聴いても音が合っていないように聞こえた
そんな感じでジャズを聴くようになって。
Wes montgomery を聴いた時なんかは、最初は音が合っているように聞こえなかったんですよね。
何か間違っているように聞こえると言うか…。
何を弾いてるのか全然わからなくて。
ペンタじゃない音を弾いているから全然わからなかったんですよ。
最初はそんな感じでしたかね。
Pat Martino についてはどんなアルバムを聴いたか覚えていますか?
Pat Martino は、最初に聴いたのが『EXIT』というアルバムなんですけど。
あれ、1曲目がフリーみたいな曲じゃないですか。
超高速4ビートで弾いてる曲があって。
もうあればかり聴いていましたね。
その当時メロコアのバンドをやっていたから、なんか同じ匂いを感じたんですよね。
「速(はや)ーーーッ!!」みたいな(笑)。
その演奏に疾走感みたいなものを感じて。
コピーをしたんですか?
いやそれはただ聴いていただけですね。
コピーとかできるわけないです(笑)。
ギター教室では音楽理論を習ったりはしましたか?
音楽理論も習いましたね、いろいろ。
でも高校の時はそこまで高度なことをしたのかな…。よく覚えてないんですけど。
まぁでもとにかく理論も習ってましたね。
その教室の先生のレッスンでは Aマイナー一発のフレーズを10個ぐらい書いた紙を渡されて、
「ちょっとオレ、いまから寝るから、起きるまでに全部弾けるようになっといて」
て言って、先生が隣の部屋に行って寝て、その横でそのフレーズを全部弾けるようになるように練習をする、というようなことをやっていました(笑)。
その先生からはとにかくめちゃくちゃいろんな音楽を聴かせてもらって。
デスメタルから、シュラプネル系っていうかトニー・マカパインとかそっち系のやつとか。
あとはクラシックギターとか、武満徹とか。
で、武満徹の音楽を聴きながら昼寝をしたりとかしてましたね(笑)。
もう訳が分からへんから、『グ〜〜』ってなりながら聴くっていうようなことをしてました。
そこの教室では高校2年生から大学1回生ぐらいまで習っていましたね。
大学に行ってからはジャズ研に入りました。
参考リンク - Wikipedia
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ギター教室 〜 大学・ジャズ研以降
それでジャズ研に入ったら、ギター教室で習っていたこととはまた違うことをやって。
ジャズ研の先輩にいわゆるジャズクラブっていうところに連れて行ってもらって。
そこで本場のフルアコを弾いているベテランのギタリストの演奏を聴いたら「うわ、Wes montgomery ぽい!」って思いました。
それまではペンタトニックで『バーーッ!』っと弾きたいという思いでギターを弾いていたので。
なんとなく Pat Martinoフレーズみたいなのやっていただけだったから、それまで演っていたものとはまた違うものに感じましたね。
で、それまではアドリブをするって言っても誰かと合奏をすることがなかったんですよね。
いわゆるカラオケに合わせてアドリブを弾いていただけだったから。
例えば枯葉のカラオケの上でアドリブを弾いたりとか。
まぁギターデュオとかやったとしても難しいから形にならないし。
大学のジャズ研に行ってから誰かと合奏したり、きちんとジャズを演奏するようになりましたね。
ロックからギターを始めて、ジャズのフィーリングに慣れるのに時間が掛かったりしませんでしたか?
時間が掛かりましたね。
ちゃんとジャズがわかってきたのは23歳、24歳とかその辺りですかね。
Pat Martino フレーズ自体は結構コピーしたりもしてたんですけど、いかんせんただただ Aマイナー一発で使いたいという動機だけだから、なんと言うか『ジャズの空気感』みたいなのが全然出ないっていう。
もちろん八分音符も跳ねてしまうし。
ペンタ一発からの脱却
『ペンタ一発』みたいなところから抜け出せたきっかけは大学に入ってからですね。
大学に行って他の人と演奏するようになってからです。
それまではただフレーズをはめ込んでやろう、という感じでした。
Pat Martino っていわゆるマイナーコンバージョンじゃないですか。
例えば、A マイナーペンタでフレーズを弾いたら、それはもちろん A マイナーで使えるし、Am - D7 - G みたいな流れでも使えるし、C メジャーの上でも使えますよね。
なので最初は、そんな感じでいろんなところでペンタトニックフレーズを当てはめる、っていう演奏でした。
ジャズ研に入ってからは、ジョー・パス(Joe Pass)とかジョンスコ(ジョン・スコフィールド)とかメセニー(パット・メセニー)とかそういうのを聴いたりもしましたね。
いろいろとコピーもしました。
きちんと弾けるようになったのはそんな辺りからですかね。
大学の先輩のギタリストが『パラパラパラパラ〜』ってジャズのフレーズを弾いたりしてたんですよ。
「とにかく解決する音が3度だったらいいんや」とか言って(笑)。
それまではそういうやり方も知らなかったので、ジャズらしく聞こえましたね…。
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使用ギターやアンプ、その他機材について
機材についてお聞きしたいのですが、まずはメインギターについて教えてください。
機材関係の話は苦手なんですけど….。
Westville というメーカーのギターで Water というモデルですね。
いまWALKiN'(※) で市販されているんですが、それの試作品を使わせていただいてます。
【※編集注】
WALKiN':東京・渋谷にある楽器屋。(https://www.walkin.jp/)
メインギターの気に入っているところなどがあれば教えて下さい。
デッドポイントがないところです。
造りがすごいしっかりしていますね。
あと、すごいフラットなんですよね。
音色がいい意味で無機質な感じなんですよ。
自分の弾いた印象でそのまま音が出るという感じですね。
逆に言うと、強いクセのある感じの音にはならないっていう。
ピックアップ(※)のせいもあるんでしょうかね。
【※編集注】
ピックアップ:USA Kent Armstrong Custom Handmade Humbuckers
メインアンプは何を使っていますか?
DV MARKのアンプ(Jazz 12)ですね。
昔は一応ポリトーンのを使っていたりもしたんですが。
あと、グヤトーンのアンプも使っていました。
マーシャルも使ったことがあったかな…。
DV MARKのアンプについて気に入ってるところはやっぱり軽いからですかね。
他に何かこだわってる機材などがあれば教えて下さい。
普段使っているのは Line6 のM9(M9 Stompbox Modeler)で。
もう M9 の中に入っているものでやるだけですね、めんどくさくて。
あとは、こだわりでもないけど BOSS の茶色いオクターバー。
OC-3だったかな?
あれはよく使っていますね。
オクターバーは歌伴(うたばん)とか、ギター一本で伴奏する時に結構使っていますね。
低音だけに掛かるので。
機材はそれぐらいですかね。
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音作りでこだわってるポイントはありますか?
最近その辺をやらなきゃいけないなとものすごく思ってるんですけどね…。
自分の場合はライブで演奏することがすごく多いので。
そうすると自分の出す音だけじゃなくて会場の箱鳴りとかも影響があるじゃないですか。
自分の弾きやすいのが一番という感じですかね。
実際に録音したのを聴いたら、思っていたような音ではなかったりして。
ヘッドホンとかで聴いていい音でも、ライブの音を聴いてみたらちょっと違う、ということもあるんですよね。
だからその辺は、どうしたらいいんやろなぁ、と思いながらやってます。
音作りについては、いまは悩みながらやっている感じですね。
ジャズギタリストってペダルを使う方と使わない方に分かれるような気がするんですが、馬場さんはペダルを使って音作りをされていますね。
そうですね。
ディレイが欲しいんですよね。
ディレイを鳴らすのはなるべくピッキングをしないように、と言うかレガートに弾けるようにするためですね。
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ジャズを演奏するときに意識すること・心掛けていること
ライブなどで演奏するときに意識していることや心掛けていることなどがあれば教えてください。
以前は、すごく周りの人の演奏や音を聞くようにしてましたね。
聞くのが9割、自分の音は1割、というふうに思ってやってました。
今は半々ぐらいですかね。
以前は周りの人が何をやってるのかをよく聞きながら、というか、まぁそれは当たり前のことなんですけど。
それがいいようになるかどうかは分からないんですけど、その(音を聞く)割合を変化させると面白いですよね。
自分の音ばかりに集中したり、他の人との音が混ざるの楽しんだり。
周りの音を全然聞いていなくても良い時もあるし、逆に周りの音をすごく聞いたら自分の演奏が奥手になってしまうこともあるし。
音を聞く割合をどこら辺に持っていくかっていう感じですかね。
あと、モチーフディベロップメント(※)というのはよくやりましたね。
自分で自分を励ます感じというか。
モチーフはアドリブ中に思いついたものでもいいし、事前に考えていたものを発展させていくのもいいし。
なるべく即興的にやりたいっていうのは大事にしてるんですよね。
まぁ大事にしてると言うか、それしかできないというのもあるんですけど。
モチーフというのはすごいやったかな。
モチーフディベロップメント(Motif Development)
モチーフの発展。
アドリブを弾く時にモチーフと呼ばれる短いフレーズや音型を展開させていく手法。
それ以外にはありますか?
それ以外だと、以前はアドリブの盛り上がるところを最後にするのか、とか最初に持ってくるのか、とか。
それはいろいろ試しましたね。
アドリブソロの最初の方にすごく音数を多くして、最後の方は減らして、とか。
やり方によって、いろいろありですよね。
あぁ、あとアドリブの中に一番高い音は一回しか出てこないようにする、というのはやったことがあります。
一番のハイトーンはそのアドリブの中で一回、というか一場面だけにすると言うか。
そういう感じそういうのもやったかな。
今ではやってないんですけど。
今はあまりそういうことは考えないようにしてやってるんですけど、以前はそういったことをいろいろやりましたね。
歌伴をする時のコツなどはありますか?
歌伴の時に大事にしてるのは自分でその人のその歌のテーマをコード付きで弾けることです。
曲のメロディーをトップノートにおいてコードをつけて弾けること。
リズムに乗れなくてもいいから、まずは一人でその歌を表現できることが大事ですね。
いわゆるコード&メロディーですね。
そうですね。
別に流暢に弾けなくてもいいから、そんなふうに弾けることはもう『絶対条件』な感じで。
それができないとボーカルを助けたり裏切ったりとか、あとハモったりなんかもできないので、まずは基本的にはコード&メロディーで弾けるように。
けっこうギターってそれが面倒くさいじゃないですか。
でも、そこを面倒くさがらずにやることかな。
その点ではジョー・パスが参考になりましたね。
デュオ(歌伴)の時はそういったことです。
まぁでもそれは歌伴に限らず、バンドの時もですかね。
バンドのときでも演奏する曲のテーマは初見でも、初見じゃなくても弾けるというか。
とにかくきちんと曲を把握することですよね。
うたわれたメロディーに対して何かするという意識を持つということかなと。
いい感じに反応してもいいし、同時にメロディーを弾いてもいいし、そこを狙ってハモらせてもいいし。
まあそれを『即興的にやる』ということですね。
例えると、ビートルズの『Penny Lane』という曲があるじゃないですか。
あの曲の歌のフレーズの間(※)にトランペットとかで『パーパッパッパパー』という間奏が入るんですが、ああいうのが即興でできるってことです。
ああいった『合(あ)いの手』みたいなことができると良いっていうことですね。
(【例】サビの『Penny Lane is in my ears and in my eyes』と『Wet beneath the blue suburban skies』の間など)
『Penny Lane』とか、他にもポップスなどの曲はきちんと構成やメロディーが練られてそういった間奏のフレーズが入ってるんですが、ジャズの場合は即興でそれをやるということです。
そういう部分、即興性を大事にしていますね。
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演奏が上達するコツ・オススメの練習方法
演奏が上達するコツがあれば教えて下さい。
これはもうジョン・ダミアンの本ですね。
ジョン・ダミアンという人の教則本があるんですが(『ギタリストのための作曲とインプロヴィゼイションの手引き』)、その本をめっちゃやりましたね。
ジョン・ダミアン(Jon Damian)
バークリー音楽大学のギター科で講師を務めるギタリスト。
Kurt Rosenwinkel、Bill Frisell、Mark Whitfield、Leni Stern、Wayne Kranz など、多数のジャズギタリストに指導をした経歴を持つ。
ギタリストのための作曲とインプロヴィゼイションの手引き(CD付)
出版社 : エー・ティ・エヌ (2003/10/9)
発売日 : 2003/10/9
言語 : 日本語
楽譜 : 167ページ
ISBN-10 : 4754932773
ISBN-13 : 978-4754932770
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これを一冊読んだらいろいろわかると思います。
これはもうすごくいい。必読ですよ。
ものすごく練習とか演奏の発想を助けてくれるという感じですかね。
ウェイン・クランツ(Wayne Krantz)の『An Improviser's OS』てあるじゃないですか。
あの数字だけ書いてあるやつ。
数字だけ書いてあって「お前ら、これをやれ」っていう(笑)。
あれをものすごく優しくした感じ。
読み物としても面白いし、内容がちゃんとギタリストに特化してるし。
これを読んだら急に音楽が優しく感じるようになるんですよね。
悩みどころではあるんですけど、『エレキギター』というとイメージ的にちょっと『悪い』方がかっこいいじゃないですか。
ギターヒーローというか、カッコよくギターを弾くイメージというか。
この本はそういうところからは遠ざかる印象ですね。
ジョン・ダミアンはバークリーの先生だから、その理屈を理解した教え子の人たちはすごいプレーヤーになっているんでしょうね。
馬場さんのオススメの練習方法もあれば教えてください。
それも全部ジョン・ダミアンの本に入ってますね。
あとは本以外のことだと…その本には書いてなかったかもしれないですが、自分でよくやったのはメトロノームを超絶遅くして合わせるということですかね。
テンポを30ぐらいで。
テンポを30ぐらいにしておいて、『ピ・ピ・ピ』っていう拍の間にいろんな拍子で合わせる。
『チーチキ、チーチキ』っていう普通のスイングで合わせたり、6/8とか、5拍子にしてみたりとか。
そんな練習はしましたね。
けっこう難しいけど、まぁみなさんやっているとは思うんですが。
あとは、1拍5連で弾くというのがあって。
『1(ワン)・2(ツー)・3(スリー)・4(フォー)〜』と普通のリズムがあるじゃないですか。
それを『タカタカタ・タカタカタ・タカタカタ・タカタカタ』って一拍を5つにして。
で、それを3と2に分ける。
『ターンタン・ターンタン・ターンタン・ターンタン』ですね。
普通のスイングに合わせて、それで弾くという練習です。
●◯◯◯◯ ●◯◯◯◯ ●◯◯◯◯ ●◯◯◯◯
二拍目が3と2に分かれるんだけど、それでレガートする。
5連符で合わせてアドリブする。
この1拍5連のやつはけっこうやったかな、という感じですね。
ネルソン・ヴェラス とかもやってますよ。
YouTube に講義が上がってるんですけど、まぁでもそれは『1拍5連』というよりかは5拍子のやり方という感じで。
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それ(1拍5連での練習)をやる目的は何かと言うと、1拍を自由に取れるようにするためです。
なので、5連でもいいし、6連や7連でもいいし。
『1(ワン)・2(ツー)・3(スリー)・4(フォー)〜』とリズムが流れていく上で1拍の中に音符が何個入ってもいいよ、と。
1拍の中に入る音符を自在に感じられるようになると、すごくどっしりした構えができると言うか、演奏が安定するんですよ。
超早くなってきたら難しいですけど。
で、それは『1拍5連の曲があって1拍5連で演奏できるようにしたい!』というわけではなくて、1拍の感じ方を鍛えるということです。
1拍の感じ方が違うようになるというか。
『1拍の中に何個音が入ってもいいよね』という感じで、その音を感じられるようにするのがすごく大事だと思っています。
リズムが重要
まぁよく言われるんですけど『リズムがきちんとできていれば何を弾いてもかっこいい』みたいなことはありますよね。
リズムさえかっこよければ、っていう。
例えば、ギターのカッティングを専門でやったりするような人がいると思うんですけど、そういう人たちって凄まじいじゃないですか。
ものすごい精度で演奏していて。
まぁそれはそのカッティングをやるような人たちの中で精密化されているんですが、ジャズの場合で言ったら8分音符ですかね。
8分音符を3連符で弾くのか、それともテヌートで弾くのか。それともテヌートじゃなくて普通の均等な感じに弾くのか。
あるいはさっきの5連だったり、何個かに割ってやってるのとか、とか。
そういうところに意識が行くといいのかな、と思いますね。
デニス・チェンバースのソロとか、ジャック・ディジョネットのソロとか。
4バースの演奏を聴くとすごいじゃないですか。
『なんかもう、宇宙だよね』みたいな。
あとは例えばサックス奏者の演奏ですかね。
バラードの曲なんか聴いてみると7連のフレーズがあったりして。
『タカタカタカタ〜』みたいな。
パット・メセニーのレイドバックなんかもすごいですよね。
レイドバックの質も演奏する人によって違っていて。
人によっては『すごくレイドバックがハマっている』っていう時と、場合によっては全然ダメな時があったりして。
その人それぞれの感じ方なんでしょうけど。
システマティックに当てはめるとダメだったりするので。
ちょっとややこしくなってきちゃいましたね…。
まぁ、そういう感じにリズムを広くしていく、というか『感じられるリズムを広くしておく』ということが大事ですかね。
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日々練習してることがあれば教えて下さい。
えーと、それはジョン・ダミアンの本に書いてあることだったり。
まだ全然(本に書いてある内容を)やりきれていないので。
あと、いまやってるのはスケール練習とクラシックギターですね。
バッハとか。
ソル、タレガとか。
そういうクラシックギターの本を買ってきたり、昔買ったやつを引っ張り出してきて、それを弾いてます。
目的としては、譜読みを鍛えるためですね。
あとは、コードフォームというか形と言うか、『こんなフィンガリング全然したことない』みたいなのがいっぱい出てくるから。
フィンガリングとかフォームは何度もやっていれば慣れるかもしれないですけど、そういうフィジカルなトレーニングのためにも。
まぁおもに譜読みのためですかね。
昔はよくいろんな人のコピーをやっていましたが、いまだと普段やってるのはそういったことです。
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馬場さんのオススメ音源・究極のアルバム5枚
馬場さんのオススメの音源を教えてください。
Songs We Know / Fred Hersch & Bill Frisell
ビル・フリーゼルはさっき話したジョン・ダミアン先生の教え子ですね。
このアルバムの良いところは、まずビル・フリーゼルのギターの音ですね。
いったい何のギターを使ってるのか。
ちょっとわからなくて、まぁ調べたらすぐにわかるとは思うんですが。
フルアコでレコーディングする時にギターの前にマイクを置いて音を録ることがあるじゃないですか。
生音も拾う録音で。
で、その音とピアノとギターのデュオで……なんと表現したらいいんだろう。
とにかく気持ち良いんですよ。
ビル・フリーゼルのボリューム奏法も良いし、生の音も良いし、オフで録ってるような音も良いし。
全体の内容も良いし。
ピアノとギターのデュオと言えばUndercurrent(Bill Evans / Jim Hall)が有名ですね。
そうですね。
あれよりはライブ感があるというか、もうちょっと小さい音でやってるな、みたいな。
ビル・フリーゼルの音色がすごい好きですね。
一般的には好みが分かれるかもしれないですけど。
とにかくピアノとギターで会話してる感じがすごいです。
Songs We Know / Fred Hersch & Bill Frisell
製品サイズ : 13.97 x 12.55 x 1.14 cm; 104.33 g
メーカー : Nonesuch
EAN : 0075597946826
レーベル : Nonesuch
ASIN : B00000AEE6
ディスク枚数 : 1
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Dois Irmaos / Raphael Rabello & Paulo Moura
ギターを弾いているのが Raphael Rabello という7弦ギタリストで。
これはクラリネットとその7弦ギターのデュオ演奏の音源です。
ギター一本ですごくオーケストラしてるっていう感じですかね。
もう感動の嵐って感じです。
何回聴いても泣くんですよね。
これはもうちょっと泣く…。
デュオで、ブラジルのショーロとかサンバの曲をやっているんですけど。
これを聴いたらぶっ飛ぶと思いますよ。
自分もボーカルとか誰かとギター一本でデュオ演奏するする時があって、その時にはこの音源を思い浮かべますね。
それぞれの曲の進行自体は決まっていてアドリブとかではないんですけど、即興性を感じると言うか。
胸アツなんですよね、とにかく。
かっこよくて熱いアルバムですね。
Dois Irmaos / Raphael Rabello & Paulo Moura
製品サイズ : 14.22 x 1.02 x 12.45 cm; 113.4 g
メーカー : Kuarup Brasil
EAN : 0887654919021
レーベル : Kuarup Brasil
ASIN : B00EFW9LLS
ディスク枚数 : 1
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The Remedy / Kurt Rosenwinkel
カート・ローゼンウィンケルは好きですね。
これはもうバンドがやばいです。
めちゃくちゃいい!
バンドとしての一番良い瞬間を収録したんじゃないかと思いますね。
カートのオリジナルをライブでやってるんですけど、メンバー全員のプレイが素晴らしいし、音もかっこいいし。
もうたまらんですよ。
ライブとしてもめちゃくちゃカッコいいですね。
一番彼らがノっている時っていう感じがしました。
YouTube にいろんなライブがアップされてたりしているけど、この音源が一番良いというか。
こんなライブが出来たらもう本望じゃないかなと思います。
The Remedy / Kurt Rosenwinkel
年上の男性の甘い誘惑で大人の世界へと足を踏み入れたエリート女子高生の迷いや葛藤を描いた映画「17歳の肖像」。アカデミー賞主演女優賞など3部門にノミネートされているこの作品,実は作中にジュリエット・グレコらのジャズが大人の世界を表現する不可欠な要素として流れ作品に奥行きを与えている。そのサウンドトラックには,グレコだけでなくメロディ・ガルドーやマデリン・ペルーらの自分を深く見つめ直すような音楽も。映画のシーンを想像しながら聴くのも楽しい。(Swing Journal2010年5月号)
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Exit / Pat Martino
これは最初の方でも話したアルバムで。
これでジャズでギターを弾くことに目覚めた、という感じですかね。
これを聴いてジャズっていうものの雰囲気を理解したというか。
なんだか『悪そうな雰囲気』というか…。
テンポが速くて、悪そうな雰囲気を感じさせられたアルバムですかね。
Exit / Pat Martino
製品サイズ : 12.07 x 13.97 x 1.27 cm; 96.1 g
メーカー : ポニーキャニオン
EAN : 4988013240308
商品モデル番号 : Exit
時間 : 39 分
レーベル : ポニーキャニオン
ASIN : B00005MFW4
ディスク枚数 : 1
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Live At The Royal Festival Hall / John Mclaughlin
これは歴史に残るアルバムだと思います。
説明しろと言われたら1時間ぐらいかかりそうなんですけど。
これももうすごい、本当にすごいですね。
ジョン・マクラフリンはガットキラーというか、ガットギターにギターシンセを繋げたようなやつを弾いていて、ベースはKai Eckhardt がエレベを弾いていて。
で、リズムはTrilok Gurtu っていう人でインドの人が弾くようなリズム楽器を弾いてるんですが、素晴らしい演奏ですね。
このアルバムはもうマクラフリンの漢気(おとこぎ)が溢れてますよね。
もうたまらんですよ。
こういうのをやりたいですよね、ギタートリオだったら。
5曲目か6曲目にMother Tongue っていう曲があるんだけど、それのTrilok Gurtu のパーカッションのソロがもうやばすぎる!
もうこれこそが歴史的というやつだと思う。
5拍子の中でソロしてるんだけど、もう凄すぎるんですよ。
これはもう超絶有名なアルバムなので、是非聴いてみてほしいです。
僕はたまにインド音楽を聴いてみたり、シタールの人と一緒に演奏をしたりしたことがあるんですけど、それのきっかけになったのがコレです。
このライブ盤の前に『Que Alegria(ケ・アレグリア)』というスタジオ録音のアルバムがあって、同じメンバーでベースだけ違うんだけど ジョン・マクラフリンのギタートリオ っていう。
それも良くて。
あとは『My Goals Beyond』というアルバムもあって、一人で多重録音をしてる音源なんですが、それもオススメですね。
Live At The Royal Festival Hall / John Mclaughlin
製品サイズ : 14.22 x 1.02 x 12.45 cm; 94.69 g
メーカー : Winter & Winter
EAN : 0025091018727
製造元リファレンス : unknown
オリジナル盤発売日 : 2011
レーベル : Winter & Winter
ASIN : B00516ZX4Q
原産国 : 英国
ディスク枚数 : 1
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究極の5枚以外によく聴いた音源
究極の5枚以外だとよく聴いたのはジョー・パスとか。
あとは菅野よう子さんのアニメのサントラ。
菅野よう子さんのアニソンはいっぱいあるんですけど。
今堀さんっていうギタリストの方(※)がいつも演奏されているらしいんですけど、そのギターワークが好きでよく聴いてます。
まぁジャズ(自分の演奏)にはほとんど影響ないんですけどね。
参考リンク - Wikipedia
今堀 恒雄(いまほり つねお、1962年12月5日 - )は、日本のギタリスト、作曲家。佐藤允彦、加古隆らに音楽理論を師事。
詳細記事:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E5%A0%80%E6%81%92%E9%9B%84
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ライブなどでの失敗談とかありますか?
はい、死ぬほどあります。
ありとあらゆる失敗をしているので、失敗については気にしないほうがいいです。
ミスりまくってください(笑)。
もしレコーディングだったら、今なら修正も出来るので。
何回弾いてもいいですしね。
今後の目標や音楽でやりたいことなどがあれば教えてください。
演奏を続けられることが目標ですね。
音楽がすごい好きでギターを愛しているという人もいたりするけど、そういう人でも挫折して辞めちゃったりとか。
そんなこともあるし。
音楽を仕事にしなくても、実家の京都に帰ってバイトをしながらでもやれればいいと思っているくらいなので。
音楽を、というかギターを続けられればいいな、という感じですね。
まぁ、あとは役に立てればっていう。
聴いてくれる人に良い音楽を提供できればっていうこともあるし。
一緒に演奏する人、呼んでくれる人の力になれれば、役に立てれば、という感じですかね。
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後編に続く
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※当インタビューは2021年11月11日にZoomを使用して行われました。
ジャズギタリスト・馬場孝喜さんインタビュー【後編】 | インタビュー - ジャズマンに訊く | 【血となり肉となるジャズギター】肉じゃぎ
肉じゃぎ
はじめに 上達のコツや演奏に関する知識など、第一線で活躍しているミュージシャンにさまざまな話を聞くインタビュー記事です。 今回はジャズギタリストの馬場孝喜さんにインタビューさせて...
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