インタビュー - ジャズマンに訊く

INTERVIEW

インタビュー - ジャズマンに訊く


はじめに

上達のコツや演奏に関する知識など、第一線で活躍しているミュージシャンにさまざまな話を聞くインタビュー記事です。

今回はジャズギタリストの馬場孝喜さんにインタビューさせていただきました。

【インタビュー内容について】
インタビューは2回に分けて行われました。
当記事は後編です。
今回のインタビュー(後編)は前回のインタビュー(前編)の約2週間後の2021年11月25日に行われています。

後編は前編の話題を中心としたよりディープで(?)詳細な内容になっていますので、前編も併せてご覧ください。
前編はこちらからどうぞ。

馬場さんの経歴や上達のコツ、その他練習方法など、ジャズギタリストにとって参考になる話が満載です。ぜひ最後までご覧ください。



・・・・・


モチーフディベロップメント(Motif Development)

前編で『演奏する時に意識すること』というテーマでモチーフディベロップメントを挙げられていて、『よくやっていた』とのことでしたが、今もやっていますか?

はい、やっています。

今でも全然やっていますね。

『自分で自分を励ます感じ』とのことでしたが具体的にどういうことですか?

励ますというか、より正確には『自分を奮い立たせる』という感じですかね。

ひとつフレーズを弾いて、それがきっかけになって次のフレーズに行くという。
モチーフディベロップメントを挙げたというのは、そういうことがやりたかったんですよ。

モチーフディベロップメントはジョン・ダミアンの本(※)とかいろんなところに解説が載っていて。
モチーフがあって、それを反対にするとか。
あとはリズムを変えていくとか。いろんなやり方があって。
【※編集注】
ジョン・ダミアン(Jon Damian)著
ギタリストのための作曲とインプロヴィゼイションの手引き
(※前編を参照ください)

いろんな方法があるので、練習としてはそれがものすごく役に立ちましたね。


ジョン・ダミアンの本は本当に良くて。
単純な教則本としてだけでなく、読み物としてもすごく良くて。

カウンターポイントというのはどういうことか、っていうのをフィギュアスケートに例えた解説をしていたり。
この人がいてこういう風に動くとか。
『何々に対して〜』って言う。

そういう難しいことをポップにまとめて書いてありましたね。


モチーフついてはハル・クルックの『ハウ・トゥ・インプロヴァイズ』という本にも載ってますよ。
『ハウ・トゥ・インプロヴァイズ』にはその辺がもっと詳しく書いてあります。

ハル・クルックの本はギターだけじゃなくて全ての楽器対応ですけどね。

『ハウ・トゥ・インプロヴァイズ』はモチーフディベロップメントとかについてかなり深堀りして書いてあります。


ギタリストのための作曲とインプロヴィゼイションの手引き(CD付)

出版社 ‏ : ‎ エー・ティ・エヌ (2003/10/9)
発売日 ‏ : ‎ 2003/10/9
言語 ‏ : ‎ 日本語
楽譜 ‏ : ‎ 167ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4754932773
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4754932770


アドリブの画期的な練習法 改訂版 ハウ・トゥ・インプロヴァイズ

瞬時に作曲しながら演奏を同時に行うインプロヴィゼイション(即興演奏、アドリブ)への対応力をつける全楽器共通のメソッドです。論理的かつ多角的な解説によってさまざまな角度からインプロヴィゼイションに取り組むことで、今まで意識が届かなかった部分を補うことができます。中級者以上を対象にしていますが、冒頭部分はインプロ初心者にも役立つ内容です。ジャズにおけるインプロを基本としていますが、その他のコンテンポラリー音楽にも応用ができます。

馬場さんはジョン・ダミアンやハル・クルックの本など、いわゆる上級者向けの教則本をかなり読みましたか?

いやもう全然。

ちょっと見たくらいですね。

モチーフディベロップメントを習得するためのコツや練習の仕方などあれば教えてください。

まず第一歩は普通に『ドーレーミー』みたいなフレーズを弾いて。
『ドーレーミー』を弾いたとしたら、『レーミーファー』とかじゃなくて『ドーレーミー』だけで死ぬほど遊ぶ。
リズムを変えて。

『ドーレーミー』から『うん(休符)ドーレミー』にしたり 『ドーーレーーミ・』にしたりとか。

ドレミだけでいろんなバリエーションを作ると。

自分の場合はインド音楽、というかオススメの音源で挙げたジョン・マクラフリンのCDのところでも言ったんですけど、マクラフリンの音楽からもそういう要素が多く学べますね。

インドの音楽のフレーズの作り方って、例えば『ドーレーミー』と弾いたら、次は『ドーレーミーファーミー』とファを付け足すんですよ。
で、次に『ドーレーミーレードーシードー』とシを付け足す、とか。
広い意味でのモチーフディベロップメントで、そんなふうにフレーズを作っていったりするんですよ。

モチーフディベロップメントから普通のフレージングにつながる体験

で、自分の体験なんですが、そういう『モチーフを活かす』という意識でまずアドリブをやったんですよね。
バップフレーズとかコピーしたフレーズをまったく忘れて。
手癖のついたフレーズとかもいったん忘れて。

モチーフの発展だけでフレーズを作るという練習をずっとしていたら、いつのまにか手癖フレーズにつながるという体験があって。
そういう時期が一瞬だけあったんですよ、一週間ぐらいだけ。

モチーフディベロップメントだけでやっていたら、それまで死ぬほど練習してきた手癖フレーズみたいものが勝手に出てくるという瞬間が。モチーフからのフレーズと手癖のついたフレーズが切れ目なく出てくるという瞬間があって。

『あ!シームレスにつながった!』っていう体験をしましたね。



・・・・・


ミック・グッドリックの教則本が数年前に出たんですけど。
『前人未到の〜』とかいう本で…。

えーと、なんていうタイトルだったかな。

(検索して)『前人未到の即興を生み出すギター演奏の探求』という本ですか?

あー、そう!
それです!

ミック・グッドリックが 1970年代ぐらいに書いた古い本を翻訳して、たぶん最近出た本だと思うんですけども。

その本の帯に『あなたが次に弾く音はまだわかりません』みたいなことが書いてあるんですよ。


『あなたが次の瞬間に何を弾くか、誰も知らない』というやつですね?

あー!
それです、それです!

そのロマンを自分はやっているという感じですね。

だから、事前に練習して・用意して演奏するというところからはじまって、上達していくことによってそういった意識で演奏するようになった、ということですね。

前編で話されていた『即興性を大事にしている』というのはここにつながっているわけですね。

そうなんですよ。

そのモチーフディベロップメントで『チンタラチンタラ』とソロが始まるわけなんですけれど。
モチーフを大事にして、最初は音数を少なくして、と。
それをやっていたら今までやってきたビレリ・ラグレーンとかパット・マルティーノのフレーズがポロポロと出た時があったんですよね。
今から5〜6年前のことなんですけど、そういう体験をした期間が一週間くらいあって。

『あーなるほど!これが即興か。』
みたいな。

まぁ、でもモチーフを使えるのは長いソロを与えられている時だけですね。
アドリブでモチーフを使うと結構時間が掛かるんですよね。最初のアイドリングの部分ができてしまう、というか。
最初は音数を少なくして、そこから発展させて〜、というふうになってしまうので。
歌伴とかで必ず1コーラスで締めなければいけないとか、そういう場合には使えないんですけど。
そういう時にはもうパワープレイというか…。まぁパワープレイをやりますよね(笑)
発展させる前に終わっちゃうから。

だから、モチーフを使う演奏と使わない演奏と、どっちも大事ですね。



・・・・・


めちゃくちゃ深いモチーフディベロップメント

で、モチーフディベロップメントっていうのはめちゃくちゃ深くて。

さっき言った『リズムをずらす』とかじゃなくて、リズムを反対にする方法とかもあって。

『ドーレーミー』を『ミーレードー』にする、というわけではなくて。
発想としては、例えば、酒バラ(※酒とバラの日々(Days of Wine and Roses))の楽譜があったとして、それをあえて反対から読むとか、そういう考え方もあるんですよ。
クラシックの作曲技法みたいなやり方で。

あとは違う譜面を見るというやり方もありますね。
例えば、酒バラの譜面があったとして、最初のテーマの音程はそのままで違う曲のコード進行を読むというやり方。
Body and Soul のコード進行に酒バラを当てはめるとか。
Body and Soul のコード進行の上に酒バラの『key = F』のボイシングを当てはめると。
そういう方法もあって、けっこう無茶なこともやってましたね。

歌伴のイントロとかでも、即興でその前の曲の譜面を見ながら次の曲をやるとか。

もうゲーム的な発想ですかね。

ジョン・ダミアンの本に対位法という項があるんですが、この発想はまさにそこに書いてある内容です。

何かが動いているときに、そこに関係性があって。
メロディーとコードの関係性とか。

その関係性には3種類あるんですが、
1)メロディーが上がっていったらコードも上がっていく。
2)メロディーが上がっていってもコードはステイしている。
3)メロディーが上がっていたらコードは下がっていく。

というような、その3種類のモーションがあって。

で、そのやり方を鍛えて練習して、実際に即興で指板上でやる、という感じですかね。



・・・・・


そのモチーフディベロップメントの方法を広義に解釈したら、『メロディーは酒バラなのにコード進行は Body and Soul』ということも理論的には成立するんですよね。

Body and Soul で最初のコードが E♭マイナーなのに酒バラのフレーズを弾き始めると。
酒バラを当てはめると E♭メジャー のフレーズになるから合わないんですけど、なんとかそこに速攻で対応するという。
そうやって鍛えるというか、そういう発想をもとに即興的に演奏するということですかね。

めっちゃ必死こいてやったわけじゃないんですけど、そのあたりは結構やったんですよ。

前回(前編)でも言ったんですけど、リズムに乗らなくてもいいから。
頭の体操として。
指板を理解するために、そういう感じで発想して練習してみるといいかもしれないですね。


で、実際にそういう演奏をしていたら、めちゃくちゃ変なテンションにメロディーが来たりするわけなんですよね。
コード進行もわからなくなってきて『一体何をしてるんやろ、オレ!?』というふうになったりするんですけど…。

そういう発想でイントロを弾いたりしていると、カート(カート・ローゼンウィンケル)っぽいイントロになったりしますね。
まぁカートが弾いているのはちゃんと考えられた上でやってるんだけど。

自分なりのイントロとしてすごいヘンテコなイントロが必要な時に、以前はそういうことをよくやったりしましたね。

そういった演奏は今ではやっていないですか?

今だと奥平(奥平真吾)さんのバンドではけっこうやったりしています。

何か演奏する曲に対して自分なりにイントロを工夫して、ひとつだけじゃなくていろんなパターンを弾いて、その曲にバリエーションをつけていくという感じですかね。

バラードの曲のイントロなんかをピットインとかでぶっつけ本番でやったりしていましたね。
前の曲の譜面を見ながら Peace(ホレス・シルバーのバラード) を弾いたりとか。

本当は家で練習してやればいいかもしれないんですけど、そんなことをやってます。
破綻しないようになんとか誤魔化すという。

かなり難易度は高そうですが、自分の表現を増やすのにとても良さそうですね。

そうですね。
本当にね、実際に弾いてみるとどうなるかわからないんですが、もう結果はどうあれという感じですかね。
結果はどうあれチャレンジしてみなよ、と(笑)

そういうことやってると左手のフィンガリングとかがめちゃくちゃなことになったりするんですよ。
即興で、というかすぐに次の狙った音に行かないといけないから。
そしたらもう『あんぎゃーーー!!』となるんですよ。
前回で言ったクラシックギターの演奏だとそういうのが多いから。
それでフィンガリングを鍛えとく、みたいな。

音の動きを意識する

自分が弾いている3音から4音、ギターだと最大で6つの音。

それが『どんなふうに動いてるんでしょうね?』ということを常に意識すると。
『真ん中の方の音がどこに行ってるんでしょうね?』とか。

そういうことを常に意識して弾くということですかね。

特に歌伴の時なんかはめちゃくちゃ意識して。
いわゆる内声というやつですかね。

で、ボイスリーディングということになるんですけど。

【ボイスリーディング(Voice Leading)】
声部連結。
コードの各声部(ヴォイス)をできるだけ近い音に移動させるコード・チェンジのこと。

ボイスリーディングについては自分の場合は我流でやってきたんですけど…。

例えばツーファイブでもいろいろあって。

シンプルな Dm7 -G7 C△7みたいな進行でも、いろんなポジションとか押さえ方のバリエーションがありますけど。
『どの音がどういうふうに動いてるんだろう?』と考えながら弾くのは大事ですね。
そういうことを気にする、というか。
気にするのが大事というか。

例えば、タブ譜とか見ながらボサノバの曲のバッキングやコピーをして弾いたりする時があると思うんですが、その時にコードの中でどの音が動いてるかを聞こえるようにするということですかね。
で、音の動きがわかったら、なんとか自分で音を自由にコントロールするということです。

単にギターのコードフォームとか形だけで演奏していたら、まぁ弾けてるからいいなっていう感じになりがちなんですが。
それはそれでギターの音としては成立するし、素晴らしくていいんですけど…。
そうなんだけど、できればなるべく自分ですべてコントロールしている、というのが望ましいということですね。


Live at Cafe Navi(@富山県高岡市)



・・・・・


コード & メロディやボイシング、ハーモナイズについて

前編で『曲をコード&メロディーで弾けることが大事』とのことでしたが、習得のための練習方法やコツがあれば教えてください。

最初はもうルートとメロディーだけでいいんですよ。

極端に言うと、ルートとメロディーだけでいいから曲を弾けるように、表現できるようにすると。
とにかくまずはそれできちんと弾けるように。

ルートとメロディーを同時に弾いて。

そうすると一人で音楽が成立するというか、曲を演奏できるようになるので。

たしかジョンスコ(ジョン・スコフィールド)が There Will Never Be Another You をソロで弾いてるのがあるんですけど。
スチール弦のアコースティックギターでやってるんですよ。
YouTube にあるかもしれないんですけど、それはわかりやすくて良かったですね。

ジョンスコの場合はピックだけで弾いているんですよね。
指じゃないので同時に弾いていないんですよ、ルートとメロディーを。
だけどちゃんと曲になるように聴こえるような演奏しているので、それは結構参考になると思います。

【※編集注】
YouTube を探してみましたが見つかりませんでした。
馬場さんが言っていた雰囲気に近い演奏での『Georgia On My Mind』を以下に貼りますので、参考に聴いてみてください。


まずはシンプルでいいですよ。

まずはルートとメロディーを弾けるようにして。
ピックで弾く人の場合は、同時に鳴らすのがちょっと難しいかもしれないんですけど。
タイミングがちょっとずれちゃうので。

リズムに乗れなくてもいいから。
シンプルにでも曲を表現するということですね。

それで、ルートとメロディーをパッと同時に押さえて弾けたとしたら、その(ルートとメロディーの)間にハーモニーを作る音を入れると。
ハーモニーを作る音を入れた時に、その形(かたち)が勝手にコードフォームになってたりするじゃないですか。
まぁ勝手にコードフォームになってるんですよ、大体は。
なってない場合は押さえ方などを工夫しながら弾いてみるといいと思います。

以前、馬場さんのライブを観にいった時に非常に多彩なコード(ハーモニー)を演奏されていた印象がありますが、どのように発想して演奏していますか?

まぁ例えばセブンスコードの場合は裏コードが使えますよね。
【例】
G7 ←→ D♭7

とりあえず、そんなふうに代理コードを使って弾きます。

例えば、酒バラの場合だと最後にトニックに戻るところで F△7に行きますけど、そこは平行調のDマイナーでもいいわけですよね。
Aマイナーに行ってもいいし、F#メジャーセブンに行ってもいいし、B△7#11でもいいし。
みたいな感じで。
(※トップノートのF(ファ)に対していろんなボイシングを当てはめたコード(ハーモニー)になっています。)

そうやって平行調を使ったりして、コード進行を自分なりに改変するわけなんですよ。

ある意味で『作曲』というか、そういうアプローチがありますよね。
代理コードを使ったりして、違う曲にすると。

即興でアレンジしちゃうということですね。

そうですね。
自分で勝手にアレンジすると。

代理コードとか裏コードがいっぱいあるから、その時の気分で違う曲にしちゃう感じで。

で、(一緒に演奏する人に)怒られたらやめます、みたいな(笑)
怒られないんやったらこっちの方がいいでしょ、って。
こっちの方がキュンときたよね!?、みたいな感じで。

まぁ、たくさんそういうのを練習したり試してみて、ですかね。
その結果、ポッと出るようになると言うか。

とはいっても平行調に置き換えるぐらいだったらたぶん誰でもできると思うので。
【例】
C ←→ Am

C△7 と Am7 と。
あと Em7 は大体一緒ですよ、みたいな感じで覚えて。
もうその3種類があるだけでもいろいろできますよね。

ドミナントのG7の場合だとしたら D♭7、 あとはA♭ディミニッシュとか。
ディミニッシュが使えるんであれば、もうディミニッシュはいっぱいあるし。

他にもドミナントの場合、例えばC に向かうドミナントだとしたら G7から行かなくても Fm から行ってもいいし。
サブドミナントマイナーから C みたいな。
Fm/G も行けるし、それはただの(Gの) ♭9 を使ったコードで、それほど難しくないですけど。

そんな感じでいろいろ試していったらいいと思います。


だからあとはもう頭の柔らかさで。
(一緒に演奏する人に)怒られるかもしれないんですけど、怒られないんだったらいっぱい試してみるというのがいいですよね。
もうやっちゃいなよ!って感じ。
もう YOU やっちゃいなよ!っていう感じで(笑)

どんどんやってたらいいと思います。

コード進行を譜面に書いてある通りに弾くんじゃなくて、自分なりにいろいろとアレンジして演ってみるというのがいいと思いますね。
『自分で曲をコントロールしてるんだぜ!』というのが楽しいところだし。

事前にコードやハーモニーを置き換えたものを用意して、っていう場合はアレンジ(編曲)ってことになるんでしょうけど。
そういう自由があるところがジャズということで。
それがいいところですよね。

いっぱい可能性があるんだから、そんなに難しくもないし、いろいろ試してみたらいいと思いますね。



・・・・・


譜読み

前編でクラシックギターの練習のくだりで『譜読み』について語られていました。ギタリストは譜面を読むのが苦手なケースが多いですが、馬場さんはどのように鍛えましたか?

うーん、自分の場合はただただ慣れただけですね。
いっぱい読んで慣れたという感じです。

京都にいた時にカラオケの伴奏みたいなことをよくやっていて。
よく演歌の伴奏などをやっていたんですが、演歌ってよくあるフレーズがあるじゃないですか。
歌の間とかオブリガードで「タラタラタ〜」って入れたり。
演歌ってそういうフレーズが譜面にすごく小さい玉(音符)で書いてあったりするんですよ。
それをやらされたからかな。強制的に。

あとは楽器を持ってない時に、移動ドで『ドーレ』『ドーミ』『ドーファ』『ドーソー』っていう音程感を鍛える練習はしましたかね。
キーが分かってる曲だったら。

移動ドっていうのは、例えばキーが E♭の曲だったら E♭ = ド としてとらえるっていうやつで。

それは今でもずっとやってますね。

ギターは見た目というか形で覚える楽器だから、移動ドで捉えたりっていうことは必ずしもしなくてもいいとは思うんですけどね、自分は。
なんだけど、練習はしていると良いですよ、いうくらいかな。
そんなに重視はしていないですね。
そんなにやらなくてもいいとは思うけど、まぁ楽器を持っていなくて、歩いている時とかにトレーニングしたい場合には普通のポップスの曲でも何でも知ってる曲を移動ドで歌ってみるっていう。


ギターの場合は音程をきちんと把握するよりも形で捉える方がかっこいいとは思うんですよね。

移動ドで捉えるとかそういった過程を踏まえると、いわゆるギターらしい『キュイーーン』とか『パパパラパパパパーー』 みたいな、そういうフレーズにならないと思うんですよね。
『パパパラパパパパーー』みたいな感じでやってるほうがギターはかっこいいんじゃないかな、という気はしますね。

何か曲を演奏する時に、そのメロディーやフレーズを音程で歌いながら弾いたりはしますか?

そういう練習はしますけど、本番では全然しないです。

で、練習してる成果はたまに出るから。
やっといた方がいいんじゃないかなとは思います。

どういうやり方が正当なのかはわからないですね。


まぁ譜面は最初は全く読めなかったんですよ。
自分の場合はただただいっぱい演奏して慣れたという感じで。

そういえば、自分の場合はピアノを、小学校の4〜5年生ぐらいの時に2年間だけやっていて。
子供のソナチネみたいなやつを。
それぐらいのやつをやったりはしたけど、でもそれもほとんどちゃんと見てなかったんですね。

だからその譜読み系のやつはそれほど重視してないというか。
ガッツリやらなくても、ある程度慣らしておくぐらいでもいいんじゃないかなと思いますね。


Live at Cafe Navi(@富山県高岡市)



・・・・・


リズム

前編で1拍5連でトレーニングをすると言われていましたが、リズムトレーニングについてもう少し詳しく教えてください。

1拍5連でのトレーニングは1拍を広く取れるように、ですね。

通常
●◯◯◯◯ ●◯◯◯◯ ●◯◯◯◯ ●◯◯◯◯
(※●がアクセント)
っていうのを
●◯◯◯◯ ●◯●◯◯ ●◯◯●◯ ●◯●◯◯
とかにして、フレージングすると。
ちょっとつまったレガートとちょっと持っちゃりしたレガートになる感じかな。

これはデニス・チェンバースのソロとか、ジャック・ディジョネットのソロとか、あの音符にならない演奏。
『ターーン、ターーン、、』っていう感じで、拍の頭をずっとキープしてるというのが目的なんですよ。

『タカタ・タカタ・タカタ・タカタ』(1拍3連)
っていうのを
『タカタカ・タカタカ・タカタカ・タカタカ』(普通の4/4)
『タカタカタ・タカタカタ・タカタカタ・タカタカタ』(1拍5連)
『タカタカタカ・タカタカタカ・タカタカタカ・タカタカタカ』(1拍6連)
って、1拍を細かく割っていって。
オンビートをずーっと流すという意味でやっています。
あれ、オンビートって言うんだっけ…?
とりあえずそんな意図です。

ただ『タカタカタ・タカタカタ〜』っていう連符をやりたいわけじゃなくて、『1・2・3・4〜』っていう強力なパルスを鍛えられると。

そういう発想はディジョネットとかのドラムソロからです
もう『ブワーーーー』『ブッシャーーーー』って音符にならないじゃないですか。


そのあたりについてはオラシオ・エルナンデス(Horacio Hernández)の教則ビデオがあるんですよ。
そこでルンバ・クラーベっていうのをやっていて。
ラテンの『カッ、カッ、、、カッ、カッ、カッ』っていう、拍子木みたいなのを叩いているやつ。
ソン・クラーベっていうのもあって、それはまた違うものなんですが。

オラシオ・エルナンデスはミシェル・カミロ トリオとかで演奏している人で、ドラムをやりながら左足でクラーベをするんですけど。
16分音符での『タツタツッ』っていうルンバ・クラーベのリズムと3連の間のリズムをやるんですよ。
そういうのが参考になりますね。
それでむちゃくちゃ詳しくやってるので、そのビデオも観てみてください。

で、そういうのをずっーと聞いていくと『ワン・ツー・スリー・フォー』っていうパルスが鳴っていたら、あとはもう何をやってもいいんじゃない?っていうような感じになったかな。

そのオラシオの教則ビデオはレイドバックなんかに通じる感じですね。
一体どういうふうにレイドバックするんだろうみたいな。

レイドバック

パット・メセニーのレイドバックなんか凄まじいですよね。

ギターのレイドバックって難しいというか…。
わざとらしくやると、わざとらしくなっちゃうし。
そこは難しいから、ギターのレイドバックはもう本当にわからんなぁ。

とにかく難しいですね。

バーニー・ケッセルの場合は右手がずっと動いてて、フレーズの間に『ジャッ』とか『ギャッ』っていう合いの手みたいな音を挟んだりするじゃないですか。

フレーズの合間にバッキングを入れて、というか、コードを入れたりとか。
ああいうのはいわゆる『芸』になっているというかね。
あれもすごいかっこいいですもんね。
もうポールウィナーズとか死ぬほど聴きましたよ。

フレージングについて、昔のミュージシャンだと跳ねた感じで弾く人もいますが、(前編で)馬場さんはレガートに弾きたいと言っていましたね。

そうですね。
大学時代とか若い時に「8分音符がピョンピョンしてる」ってよく言われたから。
録音したのを聴いたりすると『あぁ〜(たしかに)』ってなるから。
それで改善していきましたね。
『跳ねちゃダメだ、跳ねちゃダメだ』ていう感じで。

まぁミュージシャンによってはほんと8分音符がイケてたり、イケてなかったりしますよね。



・・・・・


ギラッド・ヘクセルマン(Gilad Hekselman)


(前編で)オススメのCDを挙げましたけど、それ以外にもう一つオススメがあって。
ギラッド・ヘクセルマンのライブ盤で『Splitlife』。
アリ・ホーニグ(Ari Hoenig)と演ってるやつです。

あれはジャズギター系で言うとすごい良かったですね。
死ぬほど聴きました。

よく聴いたし、これからこの人が真似されるんだろうなぁって。
これからこの時代になるんか、っていうふうに思いましたね。
『ここまでやらないといかんのか、ジャズギターは!?』みたいな感じでした。

超絶やばい動画

YouTubeにギラッド・ヘクセルマンがトリオで、大学かどこかで演奏している『Ari Hoenig Trio - The Painter』 っていう動画があるんですけど。
パート1とパート2にわかれてて、もう10年以上前にアップされた動画。
たぶんYouTubeがまだ割と出たての頃のやつじゃないですかね。

それのギラッド・ヘクセルマンのソロが、それこそモチーフディベロップメントだったりアカデミックな手法で。
もうすごいんですよ!
『どこ演ってんの!?』みたいな感じの。

もう本当に凄すぎて。
というか、バンドが凄すぎる。
十何年前のやつなので、みんな20代でニュースクールの若手で。
スクールを出たてなのかわからないけど、そんな若さなのに凄い。

その動画の頃のギラッドはフルアコでシンプルなセッティングで。
そのあとディレイとか掛けたりカートっぽくなるんですよね。

Ari Hoenig Trio - The Painter Part1 & Part2



【動画の概要欄より】
"The Painter" by Ari Hoenig. From the January 18, 2008 master class at Loyola University New Orleans.

Ari Hoenig - Drums
Orlando LeFleming - Bass
Gilad Hekselman - Guitar

・・・・・

この動画の演奏がもう超絶やばい。
アリ・ホーニグ(Ari Hoenig)のオリジナル曲を演ってるんだけど。
その譜面があって。

ジャズってずっと譜面を繰り返すじゃないですか。

その楽譜が超絶解体されてしまって、もうどこに行ってるかわからなくなるんですよね。
で、バーッとキメみたいなところがあって、ちゃんと合うっていう。

とにかくすごい演奏なんですよ。
それをギタートリオでやってしまってるんですよね。そこがすごい。
まぁ、ピアノトリオだったらそういう演奏はあるんだけど。

その動画で演ってる『The Painter』っていう曲、ライブ版じゃない普通のスタジオレコーディングも上がってるので、前知識として聴いてみてからそのライブ演奏を聴くのもいいですし。
で、ちゃんとその曲のフォーム(定型)があるんですよ。
フォームがあるんだけど、その中で骨格だけを残しながらいっぱい遊んで、もう曲のキーすら遊んで。
一応この曲はキーがあって、転調もしないんだけど、そのキーすら…。
もうギラッドがヤバイ!っていうね。

ほんまに『どんな頭してんの!?』っていう感じで、むっちゃ憧れたね、これは。

『この人(ギラッド)はこのあと絶対に来る』って思ったし、これがスタンダードになるんだったらもう辞めたいな、って言う(笑)
『マジでこんなことになってるわけ?』って思いましたね。

【参考】The Painter - Ari Hoenig(ギラッドとのライブ版ではないバージョン)




─────────────────────


ニューヨークでアダム・ロジャースに言われたこと

ひとつエピソードとしては、その頃(動画が撮影された2008年頃)にニューヨークに遊びに行ったんですよ。

で、アダム・ロジャース(Adam Rogers)が出演しているニューヨークのフィフティーファイブバーのライブに行って。
たしかデヴィッド・ビニー というアルトサックスの人のライブにアダムが出てたのかな。

そのライブを観に行った時に、『最小限の情報で、譜面なんかちょっとしか書いてないのにこんな曲ができるんだ。インプロビゼーションでそれを大事にしましょう』って。
『譜面に書かれたこんな最小限の情報で全く違う世界に行けるんですよ』ってアダムに言われたんですよね。
その時どういう内容で話しかけたかは忘れたんですけど。
とにかく話をした時にそんなこと言われたんですよ。

演奏してたのはデヴィッド・ビニーの曲で譜面が2〜3行しかないんですよ。
あとは全部フリーで、もう何もやっていいっていう。

そのアダムが言っていたような理論を譜面にすると、例えばAll The Things You Areでも、最初のテーマの部分(Aセクション)くらいだけで。
この最小限の情報の中で、『どんどんいっぱい展開してくんだよ』ってアダム・ロジャースに言われたんですよね。
まぁ2周も3周も回った考え方だと思うんですが。

インプロビゼーションいうことになるとその言葉が非常に印象に残ってますね。

コード進行があってそれに沿ってどんなふうにアドリブをするか、とかではなく。
最小限の情報を与えられて『あなたはどう展開するんですか?』っていう。

さっきのギラッドの動画はそれをまさに体現してるという感じですかね。



・・・・・



ブラジルに行った話

馬場さんはブラジルに行ってギターを習ったことがあるようですが、そこでの経験について教えてください。

それはあまり大した話ではないんですけど…。

ブラジルのリオにそういうコーディネーターさんがいたので、そういうタイミングを見計らったというか、それを頼ったという感じですね。
リオに日本人の人が来て『ギターを習いたい』っていう人がいっぱいいるんですよ。
それでそれを世話する人がいるんですよね。
その人がいる時期を狙って行ったという感じなんです。
そしたらビリーニョ(Bilinho Teixeira)さんを紹介された、と。

あと自分のプロフィールには書いてないんだけどナンドさんっていう人にも習ったんですよ。
ナンドくんというか。
ナンドさんは僕より年下なんですけど。
僕がブラジルに行ったのが25〜6歳のころだったんですけど、23から24歳の子(ナンドさん)にサンバを習いましたね。


ギターを習ったのは、2〜3回ぐらいです。

それに加えて毎日ライブを観に行きましたね。
ブラジルへの滞在自体が1ヶ月ぐらいでしたけど、ライブは毎日2個ぐらいは観に行ってました。安かったし。
昼はどこどこで(ライブを)やってる、夜中はどこどこでやってる、みたいな感じでしたね。

ヤマンドゥ・コスタ(※)からもサインもらいましたよ。
ヤマンドゥはそのあと『笑っていいとも!』に出てたりしたけど。
ヤマンドゥ・コスタが世に出てきたっていう頃じゃないかな、たしか。
ヤマンドゥのライブも観に行きましたね。

ラファエル・ハベーロ(Raphael Rabello)のCD(オススメの音源)の話題でも話しましたけど、7弦ギターなんですよね。
ラファエルは交通事故かなにかで若くして亡くなったんですけど。
ヤマンドゥ・コスタがラファエル・ハベーロの次に出てきたって感じかな。


いやーもうほんまに、ブラジル人のギタリストは全員やばいんですよ。
めちゃくちゃかっこいい。

※参考リンク





─────────────────────


ブラジルでの経験は今の演奏スタイルなどに影響がありますか?

うーん、まぁ『空気感』みたいなものは知ることができましたね。

ブラジルに行く時にめっちゃ予習して行ったんですよ。
本当にめっちゃ予習して、いっぱい耳コピして行って。
ブラジルのサンバのパターンとか、めちゃくちゃ予習して行ったから、そしたらそれより先はなかったな、だいたい知ってたという感じで…(笑)
その、嫌な感じで言っているわけではなくて、本当に真面目に予習をして行ったから。
そしたら、その予習以上のことはなかったんですよ。

リズムのパターンとかを習うんだけど、『あー全部知ってるなぁ』みたいな感じで。
だから、『もっと違うやつを』とは思ったけど。

でも空気感は全然違ったし、それを経験できたのは良かったですね。

ライブでアドリブを弾かせてもらった話

ビリーニョさんとかナンドさんじゃなくて、リオでお世話をしてくれたコーディネーターさんの彼氏もギタリストだったんです。
その人に誘われて、野外でショーロを演って飲むっていう会場があって。

で、そこで演奏させてくれたんですよ。
ジャズをやってるって言ったら演奏させてくれたんです。

ショーロっていうのは基本的にバッキングから何から何まで決まってるんですよ。
なのでジャズみたいなアドリブはないんです。
けど、演奏を一緒にしてる時に「インプロビゼーション!」って隣にいる自分に言ってくれて。
「お前やれ」と。
(キーが)Dmの曲でバーっとアドリブしましたよ。

ショーロはアドリブがないとは言っても、ある曲もあって。
そのセクションは何とか受けましたね。
Beautiful Love みたいなコード進行の曲だったんですけど。マイナー系の弾きやすいやつで。
『パララパラララ』っていう感じで。

それは面白かったですね。



─────────────────────


─ 馬場孝喜さんインタビュー終 ─

**********

→前編はこちらから




・・・・・


TAKAYOSHI BABA WEB SITE


馬場孝喜Live Information




・・・・・



Splitlife - Gilad Hekselman

メーカー ‏ : ‎ Smalls Records
EAN ‏ : ‎ 0823511001522
レーベル ‏ : ‎ Smalls Records
ASIN ‏ : ‎ B000H5U6IO
ディスク枚数 ‏ : ‎ 1


Painter - Ari Hoenig

メーカー ‏ : ‎ Smalls Records
EAN ‏ : ‎ 0616892566120
商品モデル番号 ‏ : ‎ arihoenig3
オリジナル盤発売日 ‏ : ‎ 2004
レーベル ‏ : ‎ Smalls Records
ASIN ‏ : ‎ B0001GF2C4
ディスク枚数 ‏ : ‎ 1


関連するキーワード

インタビュー - ジャズマンに訊く

オススメのコンテンツ

人気のコンテンツ