インタビュー - ジャズマンに訊く

成瀬明さんインタビュー【後編】

【公式サイトより】
成瀬明さんプロフィール

1987年12月生まれ。愛知県津島市出身。
16歳からギターを始め、高校卒業後『MI JAPAN名古屋校』に入学。
Keith Wyatt、Allen Hinds、Kai Kurosawaなどのアーティストとセッションし、様々なジャンルの音楽を経験する。
MI JAPAN卒業後は、シンガーソングライター伊太地山伝兵衛の全国ツアーに参加する。
現在は、愛知県を中心に全国各地で様々なミュージシャンとライブ活動やセッションを行なっている。
2016年7月、砂掛康浩と共にライブレコーディングしたギターデュオのCD「Akira Naruse meets Yasuhiro Sakake」をリリース。

前半からの続きです

前半はこちら




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おすすめの練習方法

おすすめの練習(トレーニング)方法はありますか?

おすすめの方法ってわけじゃないんですけど、耳コピーはすごくやりました。

コピーするのはだいたいマイブームになっている人なんですが、その時の自分に合ってると言うか、その時の自分に足りてないものがあるって思ったらコピーしましたね。
コピーしようと思ったら、その人のアルバムを2〜3枚とかピックアップしてトランスクライブ(採譜)してみたり。

コードをどんな風に弾いてるかとか楽器をどんな風に鳴らしてるのか、とか。あとはタイム感とか。
そういうのをいろんな人でやりましたね。
で、飽きちゃうんですよ。飽きると全然やらないんですけどね。

コツとしてはコピーするだけじゃなくて、本当に演奏する人と同じようなフィールで。
トレーニングとしてやる場合は、(コピー元の)本人と同じように弾いて同じようになるか。
弾いている弦の違いとか、そういうところまでなるべく全く一緒になるように目指す。
手の大きさとかも違ったりするのでなかなかできないとは思うんですけど、できるだけ同じように弾くようにして。
なるべく本人と同じようなタイミング、同じような音の長さとかで弾けるようにするっていう。

そのトレーニングはすごく大事だと思います。

過去にどんなミュージシャンをコピーしましたか?

まずは最初の方で言ったグラント・グリーンはありますよね。

あとは畑ひろしさんっていう大阪のギタリストです。
畑さんは、専門学校に行っていた時にまた別のドラムの先生にお勧めされて。その先生は畑さんと共演もしてたので、それで勧めてもらって。
それでCDを借りて、そのあとライブを観に行って、いろいろ話をして。

僕がまだちゃんとした楽器を持っていない頃は『楽器はどれがいいんですかね?』とかそんな話をしながら。
で、その頃には全然弾けてなかったけど『I'll Close My Eyes』とかを飛び入りで参加させてもらったりして。その曲くらいしか知らなかったんですけど(笑。
畑さんにハマってアルバムをバーッと3枚ぐらいコピーしたり。

あとはジョシュア・ブレイクストーン(Joshua Breakstone)っていうギタリストもコピーしたし。
あとは…、本当にいろんな人をコピーしたんですけど。ジュリアン・ラージ(Julian Lage)とかもちょっとハマったりしましたね。
他にもいっぱいあるんですけど。

そんな感じですね。

最近よくやっているトレーニングはありますか?

できないことをできるように、っていうトレーニングで言うと5拍フレーズをメトロノームのいろんなところに流しながら弾くっていうのはやっていますね。
『タカタカタ』って言うフレーズを三連符でクリックを流して任意の箇所に合わせて弾くみたいな。
そうするとひとつずつズレていくんですけど、それに合わせるっていう。

そのトレーニング方法はマイルスオカザキさんっていうギタリストの方が紹介していて。
そういうマニアックな練習をインスタであげてるんですけど、それを見て『うわっ、オレそれ全然できんわ!』と思って、それをやってますね。
【参考】
(※Miles Okazaki (@okazakistudio): https://www.instagram.com/okazakistudio/ )


5拍フレーズずらし(成瀬さんに譜面を用意していただきました) PDFは以下(↓)よりダウンロードできます。

5拍フレーズずらし(成瀬さんに譜面を用意していただきました) PDFは以下(↓)よりダウンロードできます。


成瀬さんに『5拍フレーズずらし解説PDF』を作成していただきました。
↓以下のアイコンをクリックしてダウンロードできます。練習の参考にご利用ください。

5拍フレーズずらし解説PDF


5拍フレーズずらし解説PDF

5拍フレーズずらし解説PDF



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それとあとはパーカーのリフっていうのが最近の日課ですね。
『Shaw 'Nuff』だったり『Dexterity』だったり、そういうパーカーの曲を弾きます。
僕、アップテンポの曲が弱いんでディジー・ガレスピーの『Bebop』。あれが弾けないので昨日から練習してるところですね。

パーカーのフレーズってギターだと弾きづらかったりするじゃないですか。
それをギターなりに表現するように工夫したりとか。
ちょっと音を抜いたりとか、あとは運指を考えたりだとか。それがめちゃくちゃ勉強になると言うか。
リフを弾くだけじゃなくて、パーカーはどこにアクセントを置いてやってるか、とか。ギターで表現するにはどうするか、とか。

アルトサックスってギターで表現するには難しくて。
アルトサックスでやっていることをギターでやろうとすると結構無理があるんですよね。
まぁもちろんむちゃくちゃギターが上手かったらできると思うんですけど。
僕の場合は技術がそんなにないので、それをなんとかズルしてと言うか、工夫してなんとかそれと同じような雰囲気にならないか、というのをいろいろ考えながら弾いているという感じですね。

パーカーの曲を普通に弾いたり。
あとは例えば移調してみたりとか。
『Confirmation』を Key = B でやったり。

『Blues For Alice』を短3度ずつ転調させながらやるとか。
っていうのをやってます。

先日の金沢でのライブでは『Giant Steps』を演奏されていましたね。難しい曲にも関わらず歌心のあるフレージングが印象的でした。

『Giant Steps』も練習しましたね。
いろいろ自分自身をアップデートしながらという感じで。

ジャズを演奏しはじめた時にはああいう曲って弾くの無理じゃないですか。
だから何とかできないかっていうことでコルトレーンのフレーズをコピーしたりとか。

あとはバリー・ハリス(Barry Harris)がいい感じで演奏している動画をたまたま見かけて。それを参考にしたりとかですね。
そういうのを参考にして考えてみると、ディレイド・リゾルブとかいろんな方法があるし。

コードチェンジに慣れておくというか、コルトレーンの『Giant Steps』とか『Countdown』とかあの辺って独特なのでたまに練習してますね。


もっきりや(@金沢市)でのライブより

もっきりや(@金沢市)でのライブより



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後悔した話

『後悔した話』というテーマでお聞きしたいのですが、例えば「こんな練習をしておけばよかった」とか「◯◯は止めておけばよかった」など、ちょっと自分の中で後悔していることはありますか?

これはもう僕は完全に『譜面』ですね。
譜読みです。

これはもう20代の頃にしっかりやっとけばよかったなと思ってますね。
譜読みに関してはコンプレックスがすごいあります。

今でも足りないなって思うんですけど、玉(音符)が読めるってのはもちろんなんですけど、譜面から音楽が聴こえてくるかっていうところが…。
今ではだいぶ見るようにはなったんですけど。
この曲のピークはどこにあるのか、とか。この音符の書き方だったらこのぐらいのテンポだとか。
そういう『譜面から読めること』ってあると思うんですけど、若いうちからもっとできていれば良かったなと思ってます。

初見でどの程度楽譜を追って演奏できますか?

歌ものとかだったら大丈夫ですかね。

さっき言ってたようなチャーリー・パーカーの曲とかの場合は初見では無理なんですよ。
やったことがある曲だったら大丈夫なんですけど。

全然やったことがない曲とか、例えば先日ガレスピーの『BeBop』をやることになったんですけど、メンバーに『これをやりましょう』って『BeBop』の譜面を渡されて、それがライブの前だったらいいんですけど、突然その曲をコールされて『テーマ弾いて』って言われても無理だし。譜面を渡されてもちょっと時間が掛かるだろうなという感じですね。
譜面を渡したから『じゃあやってみようか!』ってなると、ちょっと困るかなっていう。
『まずはゆっくりやってみようか』っていう話だったら大丈夫だとは思うんですけど。
『BeBop』をあのテンポでいきなり演奏するとなったら無理で、ある程度は読めると思うんですけど『(演奏する前に)一時間ください』ってなっちゃいます。

あとは『楽器の能力』ですね。

単純に楽器を弾く能力というか、技術です。
こうやって話してると自分に欲しいところが出てきちゃうんですけど。
もっと練習しておけばよかったなっていう。

楽器を弾く技術と譜読みが自分に足りないところです。

技術の面でいうと具体的にはどういう点ですか?

速弾きができないんですよね。
BPM400とかってなってくるともう速弾きじゃないですか。
さっき言ったガレスピーの『BeBop』とかもかなり速い曲ですけど、そういうめちゃくちゃテンポが速い曲でもペラペラペラペラと弾けたら楽しいだろうなって。
インスタとかYouTubeとか見てるとそんな人ばっかりだからだから困っちゃうんですよね。
そこについてはもう別の手段で行くしかないなっていうふうに思ってます。

単純に楽器を弾く技術っていうのは若い時の方がつくと思うんですけど、もっと練習しておけばよかったなっていう。
あとは譜面を読むっていうことについても『慣れ』が肝心だと思うので、もっと読んでおけば良かったなと。

いま譜読みのトレーニングはやっていますか?

やっています。

家にオムニブックでパーカーとロリンズのやつがあるんですけど、それを譜読みの練習として適当にパッと開いて弾くみたいな。
玉(音符)を追いながらゆっくりと。
ゆっくり本を読む、というような気持ちでやってますね。

現場で必要なところまではできるようにしておきたい、というか、まぁ実際の現場で必要になる譜読みのスキルで言うとそれほど極端に難しいことが要求されることはないですよね。
難しいキーとかテンポがすごく速い曲をいきなり演ることはなくて、基本的には難しい曲の場合には当日のリスクも含めてたいてい事前に送ってくれるので。それで事前に練習する時間もあるので。

ガレスピーの『BeBop』とかその辺りの曲の場合は、その曲を知っていればなんとかなるっていうとこでもあるし。
実際にライブなどの現場で演奏するってなると、そういった事前の対応もあるので、そんなに譜読みを頑張らなくても大丈夫なんですけど。

まぁでももっと読めたらな、とは思いますね。



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【しくじり先生?】失敗した話

ライブなどでしくじったとか、これまでになにか印象的な失敗の経験はありますか?

全然あります。
演奏するときにギターにシールドが刺さってなかったとか。

(カウント)『1・2・3・4〜』で始まったと思ったらアンプの電源が入っていないとか、キーを間違えるとか。
そもそも共演者と見ている譜面が違うとか(笑。
面白い系の話としてはそんな感じで。

個人的に、最近はあえて失敗するような演奏をしてますね。

例えば『ソファミレド〜』っていきたくなるところを『ソファミレ』といって『レ♭〜』って弾くとか。
失敗するように、というか、チャレンジでもあるかな。
意図的にちょっと予定調和じゃないことを弾くみたいな。

そのまま『ソファミレド〜』って弾くと普通だから、そこじゃないところにいきたいなといくことで。
だいたいそれで撃沈するんですけど。
撃沈するんですけど、でもそれはお客さんにバレちゃいけないし、共演者にも迷惑かけちゃいけないからそこをなんとかするみたいな。
『ソファミレ』といって『レ♭〜』を弾いてから、こうやってああして〜、といろいろ工夫してうまく着地するみたいな感じで (笑。
失敗するというか、チャレンジするに近いですね。

でもジャズでの失敗はいいと思いますよ。
僕は今でも失敗してるんですけど。
失敗がつきものというか、ジャズは会話なので。そう思っていますね。



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【すべらない話?】過去の印象的なエピソードなど

ジャズをやっていて印象深かった経験や忘れられないエピソードなどありますか?

えーと、不思議な経験をした話なんですけど…。
僕は霊能力者とかって全然信用してないんですけど、霊的な現象っていうのは結構あるのかもなっていうふうに思ったことがあって。

例えば、僕がツアーをしてた時に香川で会った方がいたんですけど、ツアーのあとにその方が亡くなったっていう知らせがあって。
それでその後のツアーでもう1度香川に寄った時に、その亡くなった方が生前にオープニングアクトで演っていた曲があったので、じゃあ僕らでその曲をカバーしようということで演奏したんです。
そしたら演奏中に、曲の最後のサビぐらいのところで『ワーーーー』ってストリングスが聴こえてきて。
実際には鳴っていないんですけどね。
その時のバンドのメンバーが3人だったんですけど、確認したら3人とも聴こえてた、みたいな。
でもストリングスみたいなのが鳴る場所がないので。
そういったことがありましたね。

霊的な体験というか、そういう不思議な体験は他にもあって。

僕がツアーで参加していた伊太地山伝兵衛さんという方が亡くなってからもう8回忌ぐらいになるんですけど。8年か9年ぐらいですかね。
その方の追悼というかたちで亡くなった初年度にライブをやった時にはスピーカーから変なノイズがバチバチなるわ、誰も何にも触ってもいないのにマイクの音が急に出なくなるわ、みたいなそういったことがあって。

あと佐山雅弘さんが亡くなった時も、最後に名古屋で追悼ライブをやって。
それで最後の曲まで何ともなくて、一番最後に『Love Goes Marching On』っていう佐山さんの代表曲を演奏したんですよ。
大坂昌彦さん達と一緒に演奏したんですけど、その曲は僕と佐山さんとデュオで演奏したりもしていて。
で、その曲は『ワン・ツー・スリー・フォー…』って大阪さんがカウントして、それでみんなでユニゾンのフレーズを弾くんですけど、演奏が始まって『うわー、オレめちゃめちゃみんなとユニゾンできてる!』って思ったらその曲だけアンプの電源が入らなくなって。
そのちょっと前まで普通にアンプの音が出ていたのに、たまたまそこでアンプの音が出なくなったんですよね。
アンプが劣化で故障したのか何なのかはわからないんですけど、さっきまで音出ていたのにそこからは電源を入れ直したり何をしても音が出なくなって。
それはライブ会場にあったアンプなんですけど、急にアンプがぶっ壊れたみたいな。
『うわー、佐山さんにいたずらされたわー』って冗談で言ってたんですけどね。
なんかおかしいなとは思ったんですよね。
こんなにうまくイントロのところをユニゾンできると思ってなかったから、妙に調子がいいな、って思ってたらアンプから音が出てないしみたいな。

そういうのって本当によくわからないですよね。
たまたまその時にアンプの調子が悪かっただけっていうことかもしれないですけど。
佐山さんがいたずらをしに来ていたって、僕らがそう思いたいっていうこともあるので。

僕はあまり信じたくはないんですけど、意外と音楽ってそういうスピリチュアルみたいなことがあるのかもしれないですね。

海外に行かれたことはありますか?

ないですね。

一回だけMI JAPAN(専門学校)に通っていたころに、その学校の本校がロスにあるので、修学旅行じゃないですけど5日間か6日間ぐらいアメリカに行きましたね。
それぐらいですかね。海外に行った経験というのは。

大坂昌彦さんや佐山雅弘さんと共演されていたとは知りませんでした。いろんな方と共演されているんですね。

名古屋に住んでいたのが良かったかもしれないですね。
今でも名古屋に住んでるんですけど。

名古屋っていろんな方が来る場所で、景気が良かったころは東京からバンドで来るんですけど、最近だと東京からミュージシャンが一人で来たりっていうことがよくあるので。
そういう理由でいろんな人と共演する機会があるのかもしれないですね。

大坂さんのスイング感はすごい良かったですし。
ジーン・ジャクソン(Gene Jackson)っていう、ハービー・ハンコック・トリオでとかで叩いてた方なんですけど、その方を名古屋のお店がゲストで呼んだ時は『向こうのドラムの人ってこういう感じなんだな』っていうスピード感の凄さとか音楽に対する演奏の仕方というか。優しさもあったり、自分のペースで進んでいくところとか、いろいろと印象に残っていますね。

あとは、ボーカルのCHAKAさんっていう方がいて。
僕は歌と一緒に演奏することがすごい好きでよく演奏するんですけど。
CHAKAさんと一緒に演奏した時にはぶったまげましたね。もう『ジャズをやってる』っていう感じで。
スキャットをめちゃくちゃするんですよ。
『How High The Moon』とかああいう曲でもめちゃくちゃスキャットしたりして。あんまり周りにそういう人いなかったんですけど。
CHAKAさんと一緒に演奏する時はスキャットがどんどん入ってくるんですけど、それがめちゃくちゃかっこいいし、本当に凄くて。
そのあとにギターソロとか回ってくるんですよね。
これ、ギターソロいる!?』みたいな。
それは衝撃でしたね。パワー感というか。楽しかったです。



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【究極の5枚】オススメのアルバム

※成瀬さんにオススメのアルバムを教えていただきました。

Green Street / Grant Green


Green Street / Grant Green

1 No. 1 Green Street
2 'Round About Midnight
3 Grant's Dimensions
4 Green With Envy
5 Alone Together
6 Green With Envy
7 Alone Together (Alternate Take)

このアルバムはシンプルなところがいいですね。

グラント・グリーンがペンタトニックとかよく弾いてて、僕はロックから入ったので、そういった人には入門的な意味合いでオススメです。
あとは弾き味のあるフレージングをしてくれるから、入りやすいと言うか。
そういう印象があるのでオススメですね。



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Take Ten / Paul Desmond


Take Ten / Paul Desmond

デイヴ・ブルーベック・カルテットの花形サックス奏者にして、同バンドに「テイク・ファイヴ」の大ヒットをもたらしたポール・デスモンド。彼がリーダーとして本領を発揮した1枚がこれだ。「テイク・ファイヴ」の続編にあたるタイトル曲を筆頭に、「アローン・トゥゲザー」「オルフェのサンバ」等の名旋律が、こよなく美しいトーンで奏でられる。ジム・ホールのギターも快演。

これはもうジム・ホールですね。
ポール・デスモンドとジム・ホールがやってるのは全部好きなんですけど。

やっぱり(ジム・ホールの)コンピングですよね。
コードを弾くアイディアが全部それぞれにいいので。
特にジム・ホールはボサノバの処理がうまいですよね。

ジャムセッションとかライブでもボサノバの曲でギターが何をするかっていうと、『チャッチャーッチャッチャー』ってみんな弾くじゃないですか。
あれはあれで良くてああいった演奏も必要なんですけど、あそこから発展した方法で上手い演奏をしているという点でジム・ホールはやっぱり素晴らしいと思いますね。

そのリズムの核を突きながらアルペジオをしたりとか、コードの内声を動かしたりとかそういった処理をしていて。
そういうところを聴くと面白いなと思いますね。



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Fingerpainting / Christian McBride, Nicholas Payton, Mark Whitfield


Fingerpainting / Christian McBride, Nicholas Payton, Mark Whitfield

『パーカーズ・ムード』に続く、ヴァーヴの若手トリオの第2弾アルバム。ハービー・ハンコックの楽曲を収録。 (C)RS

1 フィンガー・ペインティング
2 ドリフティン
3 カメレオン
4 テル・ミー・ア・ベットタイム・ストーリー
5 アイ・オブ・ザ・ハリケーン
6 キス
7 スピーク・ライク・ア・チヤイルド
8 ソーサラー
9 ドルフィン・ダンス
10 チャンズ・ソング
11 フィンガー・スナップ
12 スライ
13 オリロクイ・ヴァレイ
14 ジェーンズ・テーマ
15 ア・トリビュート・トゥ・サムワン

これめっちゃいいですよ。
一時期好きでめちゃくちゃ聴いてたんですけど。

曲もいっぱい入ってるんですよね。
8ビートっぽい曲もやってるし、『Tell Me A Bedtime Story』っていういわゆる普通のジャズスタンダードもやってるし。
このアルバムでは全員のプレイが素晴らしいですね、本当に。
マーク・ホイットフィールドに関しては僕はこのアルバムの演奏が一番好きです。

ハービー・ハンコックの曲って難しい曲が多いんですよね。
サウンド的にもですけど、例えばエレクトリックの曲とかいろいろあるじゃないですか。そういったアルバムもいっぱい出てるし。
そういう(エレクトリックな)サウンドが好きな人ってハービー・ハンコックにハマれるんですけど、アコースティックなジャズが好きな人の場合だとけっこう好みが分かれるというか。
僕がハービー・ハンコックっていいなと思ったきっかけになったのはこのアルバムなんですよ。
ハービー・ハンコックの曲をいい感じでアコースティックジャズに落とし込んで演奏してるというか、このアルバムではドラムがいないんですけど、本当に良いバランス感覚でそれぞれ演奏してるんですよね。

マーク・ホイットフィールドも素晴らしいギタリストで、素晴らしいアプローチをしてるし。コンピングでもソロでも。
フルアコでカッティングする感じとか、そういった演奏も参考になるかなっていう。

すごいかっこいいアルバムですね。



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Love Scenes / Diana Krall


Love Scenes / Diana Krall

前作に続き全米ジャズ・アルバム・チャート1位を獲得し、セールスでもアメリカでプラチナ、母国カナダではジャズ・アーティストでは史上初のプラチナ・ディスクを獲得した作品。1997年作品。

1 All Or Nothing At All
2 Peel Me A Grape
3 I Don't Know Enough About You
4 I Miss You So
5 They Can't Take That Away From Me
6 Lost Mind
7 I Don't Stand A Ghost Of A Chance With You
8 You're Getting To Be A Habit With Me
9 Gentle Rain
10 How Deep Is The Ocean (How High Is The Sky)
11 My Love Is
12 Garden In The Rain
13 That Old Feeling

これはもう単純に歌伴(うたばん)ですね。
いろんなテンポの曲があって。

他にもいろんな歌伴のアルバムを聴いてるんですけど。
ギターが入ってる歌伴のアルバムでっていう、それで選ばせていただいたという感じです。
好みはいろいろあると思うんですけど。

ギターのラッセル・マローンはコードとかしっかりと弾く人ですし。
スイングしてる感じのタイム感というか…。
パキパキしてるんですけどね、ラッセル・マローンの演奏って。
たまに謎のフレーズというかすごく跳躍するようなフレーズなんかも弾くし、ブルージーなフレーズも弾くし。
黒人系のフィールというか、そういうところが参考になります。

聴きやすいし、歌伴の参考にしやすいんじゃないかなと思いますね。



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Monk / Peter Bernstein


Monk / Peter Bernstein

1 Let's Cool One
2 Pannonica
3 Work
4 Brilliant Corners
5 In Walked Bud
6 Monk's Mood
7 Well You Needn't
8 Bemsha Swing
9 Played Twice
10 Ruby, My Dear
11 Blues 5 Spot
12 Reflections

これはもう全てが気に入ってるんですけど。
セロニアス・モンクの曲をどんなふうに、どうやってギターで弾いたらいいかっていう教科書みたいなアルバムですね。

ハーモニーとか、ギタートリオってけっこうサウンド的に寂しくなりやすいんですよね。
単音だけ弾いてると。
そういう意味では、最初に紹介したグラント・グリーンのアルバムはけっこう地味なんですよ。
ギタートリオって基本的に地味でいいとは思ってるんですけど。

そこにコードで色付けしたりうまいことやっていて、サウンド的な地味さとかを感じさせない素晴らしいアルバムだなと。

ピーター・バーンスタインで最初に聴いたアルバムはこれだったかもしれないです。
これを聴いたきっかけは専門学校に通っていた頃に畑ひろしさんを教えてくださったドラムの先生がいて。
『Well You Needn't』ていう曲を5拍子で演っていて、それを聴かされて。
うわ、すげー。この人かっこいいすね!』ってなって、そこからですね。
ピーター・バーンスタインを好きになったのは。

2017年に名古屋ブルーノートでピーターの公演があった時に聴きに行ったんですけど、その時にまさにモンクの曲をメインにしたライブをやっていました。たしかにギタートリオなのにサウンドの地味さを感じさせない演奏でしたね。

そうなんですよね。

音数の少なさを感じさせないし、スペースもきちんとあるし。
で、みんなでアンサンブルを作っている、っていう。

素晴らしいですよね。



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Peter Bernsteinトーク


Peter Bernstein(引用:https://www.peterbernsteinmusic.com/press-kit)

僕もピーター・バーンスタインが大好きなんですが、成瀬さんにとってピーターの好きなところはどんなところですか?

やっぱりブルースフィーリングがすごいあるところですね。

最近の活躍しているギタリストだと、例えばジュリアン・ラージとかカート・ローゼンウィンケルとか、ギラッド・ヘクセルマンとか。あとはラーゲ・ルンドとかマイク・モレノとか、いろんな方がいるじゃないですか。
その中で一番ブルースフィーリングがあるというか。

それと、タイム感がすごくて。
ピーター・バーンスタインはタイム感が圧倒的ですよね。
これはもうバグってるんじゃないか、デクスター・ゴードン以来かっていうぐらいで。
ギターでそういう方って今までいないんじゃないかなと。
まぁウェス・モンゴメリーとかはそういう(タイム感がすごい)感じがするんですけど。

うーん、やっぱりタイム感ですね。
拍が長いというか、ゆったり乗ってるところ。テンポが速い曲をやってもピーターだけ違う世界線にいるというか。
すごいなぁ、と思いますね。

コードチェンジが難しいところもブルージーなフィーリングで演奏していたり。
分散和音を弾いてるだけなんですけど、それでもブルージーなフィーリングで処理をしていたりとかそういうところがすごく上手いんですよね。
で、歌い方が変わらなくて。どんなコンテンポラリーな曲をやっても歌い方は変わってないんですよね。
そういうところがすごくいいなーって憧れますよね。
そういう演奏を自分もしたいなって思ったりもするので。

そもそも自分もブルースが好きだったりもするので。
基本的に僕はブルースフィーリングがあるのが好きなので、そういうところも自分に合ってて。
そういう点に加えて新しい解釈っていうか。
サウンドはオーソドックスだけど解釈的にこういろいろ面白くしてるよっていう。
そういうところも含めてすごいですよね。

成瀬さんの演奏を聴いてピーター・バーンスタインのスタイルをうまく消化されてると感じました。かなりコピーされたんですか?

ピーターのコピーはけっこうしましたね。
まぁ今でもしてます。

ピーターがよくやるのはオーギュメントで処理するところとか。
昔からいろんな人がやっているんですけど、オーギュメントとかトライアドとか。
あとはパワーコードみたいな、ルートと5度っていう。そういう演奏もしてるんですけど、それでうまいこと演奏してるところは参考にしたりしてますね。
ピーターってけっこうツーファイブで処理をするんですよね。いろんなところで。
裏のツーファイブとか、ハーモニー的にもそうなんですけど。
で、それを変形させるとか。

そういうツーファイブの処理とか、わかることをやってくれますよね。
わかることっていうか、考えたらきちんと理解できることをやってくれる感じがしていて。
そこがやっぱりすごいですね。
ジャズギターを考える時に腑に落ちやすいと言うか、わかりやすい。わかりやすいけどかっこいい、みたいなところがありますよね。


成瀬さんが作成したピーターのコピー譜『Nobody Else But Me』より。赤丸で囲った箇所がトライアドやオーギュメントを活用したフレーズになっています。完全版PDFは以下(↓)よりダウンロードできます。

成瀬さんが作成したピーターのコピー譜『Nobody Else But Me』より。赤丸で囲った箇所がトライアドやオーギュメントを活用したフレーズになっています。完全版PDFは以下(↓)よりダウンロードできます。


成瀬さんより『Nobody Else But Me』のトランスクライブPDFを提供していただきました。
全3ページ。PDFにはトライアドなどを示す赤丸のマークは入っていません。
↓以下のアイコンをクリックしてダウンロードできます。練習の参考にご利用ください。

『Nobody Else But Me』成瀬さんが作成したピーターのコピー譜PDF


『Nobody Else But Me』成瀬さんが作成したピーターのコピー譜PDF

『Nobody Else But Me』成瀬さんが作成したピーターのコピー譜PDF



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コピー譜(演奏をコピーした譜面)の量で言うと、僕はめちゃくちゃあります。
手書きの譜面と、あと最近は iPad を使ったりもしてます。
音源で出ているものと、あとはYouTubeでアップされてるものとかもコピーしてて。
ブラッド・メルドーとカルテットでやってるやつとか、最近配信とかも多くなったじゃないですか。コロナになってから。

知ってる曲をやってたりすると、『これやってんじゃん!』みたいな。
ピーター・バーンスタインが『Moment's Notice』をやってたり。
あとはコルトレーンの『Straight Street』っていう曲をやってるやつとか。僕ちょうどその頃にその曲(『Straight Street』)を演奏する機会があったので、ピーターの曲の解釈とかメロディーの繋げ方を参考にしたりして。

やっぱり上手にコード進行をまたいで行くんですよね。
ジョー・パスみたいなハイブリッドなやり方ではなくて、上手いこと分散和音を使ったりして。
メロディアスにモチーフみたいな形にしてつなげていくんですよね。そういったところがすごい参考になりますね。
そういう上手く演奏するアイディアがめちゃくちゃいっぱいあって。

ピーター・バーンスタインのスタンダードの演奏の仕方っていうのはすごい参考にしていますね。
彼の魅力について言いだしたらきりがないですね。

先日、成瀬さんのライブを観に行った際にいろいろピーター・バーンスタインに関するお話しをさせていただいて、成瀬さんは一度だけピーターのライブを観に行ったと聞きましたが、実際に生で演奏を観てどうでしたか?

それはラッセル・マローンとデュオで来ていたライブで、僕は『半々』で観に行ったんですよね。
その時はラッセル・マローンも好きだし、ピーター・バーンスタインも好きだしっていうことで。

そんなにまだピーター・バーンスタインに傾倒していない頃だったんですけど。

ブルーノートに来ていたんですけど、あれはいつ頃だったかな。
詳しくは忘れちゃったんですけど。
彼らが来て演奏して、圧倒的にもうピーター・バーンスタインが素晴らしくて。

僕の中ではメロディーのフェイクの仕方とかがすごいと思うんですよ。
メロディアスですよね、すごく。
で、ソロもメロディーのフェイクで演奏しますよね。

僕も普段ジャズスタンダードを演奏する時に、ピーターの影響を受けて、そういうふうに演奏しようと心掛けてるんですけど。
なるべくメロディーから派生したものを弾いていると言うか。
で、弾いていくうちにその弾いたメロディーからまた派生させていて、っていう。
いわゆるモチーフを広げると言うか、そういうところだと思うんですけど。

そういうフレージングの仕方なんかはジム・ホールもそういったアイディアでやってたりもすると思うんですけど。

ギターとしてのスタンダードの解釈っていうのが、僕の好みにとってはズシッとすごい刺さるところがありますね。


もっきりや(@金沢市)でのライブより

もっきりや(@金沢市)でのライブより



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今後

今後やりたいことや目標など何かありますか?

ソロギターです。

コロナの前からもちょこちょこやってはいたんですけど、YouTubeチャンネルに動画を上げたりとか。
ここ最近思ってるのは、ソロギターをもうちょっと頑張っていきたいなと思ってます。

ソロギターって自由なので、いろんなことができるんですけど。
コロナになってからちょっと増えたんですよね、そういった演奏する機会が。
お店に頼まれてライブ配信で一人で弾いたりとか。まぁその配信はまだ一回しかやってないんですけど。

お店によってはスケジュールが埋まらなくて、小編成でやったりとか。
あんまりメンバー入れたくないとか。メンバー入れると密になるからって言うことで。
今はだいぶなくなってきたんですけど。
それでも毎月、1日2ステージでソロギターをやってたんですよ。
やっぱり集中力がすごく要るんですよね、ソロギターって。
1時間ぐらいを2ステージやるんですけど、曲数もけっこう必要だし。ゆるくリクエストに応えながらとかやってて。

そしたらソロギターもすごい楽しくなってきて。
昔はうまくできなくて苦手意識もあったんですけど。ソロギターでもいろいろできるといいなと思ってます。
そういうソロギターの研究も続けていきたいですね。

あとはもうちょっとピーター・バーンスタインの研究も。
ピーターのトランスライブをYouTubeにアップしたりもしてたんですけど。

みんなにピーター・バーンスタインの素晴らしさが伝わればいいな、みたいなところですかね。


─ インタビューおわり ─

※インタビューは2022年4月に行われました。



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成瀬明さん公式サイト



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